第25回 マイティー塾
「高齢者住宅の現状と展望」


講師:財団法人 日本賃貸住宅管理協会
シニアステージ推進部会
幹 事 向 井 幸 一 氏


平成14年7月27日(土)
今池ガスビル 7階会議室


1.はじめに

高齢社会の到来によって、社会全体が活力を失っていくようなイメージが漂っている。
※高齢社会は、高齢者が人口に占める割合が高くなる社会。
高齢者を「お客様」と捉えれば、「お客様」が増えることを意味する。
高齢者の実態を正しく把握して、高齢者向け商品、サービスを提供することができれば事情は拡大するといえる。
一方、少子化は若年人口の減少を意味する。即ち、今までの顧客が減少することを意味している。
賃貸住宅市場では、18歳人口を把握すれば将来の需要予測が可能であるが、今後も18歳人口が増加する要因はないといえる。
今は、顧客(入居者)が減少しているので、需要と供給のバランスが逆転し、「貸し手市場」から「借り手市場」へと変化している。
昨今では、@「斡旋手数料の値引き」、A「礼金制度の廃止」、B「敷金の低下傾向」、C「入居一時金ゼロ」、D「フリーレント」等の現象が顕著になってきている。


2.貸住宅市場の現状と今後の展望

○今までの賃貸住宅の傾向
新築は満室になる
老朽化した住宅から空室が現れる
賃料の改訂は値上げが前提であった
○需要と供給のバランスが逆転した現在
新築であっても満室になる保証はない
賃料でも値下げ改訂が散見される

(1) ワンルーム市場
一般的にワンルームは大学生向け物件として供給されてきた。
大学とも毎年確実に新入学生があったが、昨今では「定員割れ」を起こす大学が見られ、「女子大に男子学生を」、「工業大学に文系を併設」というような工夫をする大学が現れてきた。
少子化は大学にも影響を与え、各大学とも選ばれる大学を模索し、学生の確保に躍起になっている。
在のスピードで少子化が進行すると、いずれは学生不足により統廃合が行われるものと考えられる。(小中学校では既に統廃合が始まっており、数年のうちには大学にも波及。)
大学が廃校になったエリアのワンルームは、入居率ゼロという悲惨な状態になる。
昨今では、一定の顧客に特化し、顧客の志向に合わせた特徴ある賃貸住宅、いわゆる「コンセプトマンション」が増加している。これらの物件は賃料が高く、入居率も高いという特徴がある。
(2) ファミリータイプ
ファミリータイプも基本的には少子化の影響から空室は増加傾向にある。
ワンルームタイプと比較すると少子化傾向による影響は遅れて現れ、楽観視できない状態である。
企業の社宅に対する考え方についても、「社宅や寮を保有するよりも民間賃貸住宅を活用する方がコスト低減につながる」という考え方に変化してきている。
また、従来の「借り上げ型」から「家賃補助型」が主流になりつつあると同時に、不況の影響もあって、家賃補助の額も低下傾向にある。
法人とのパイプが強い管理業者と組むことが有効
従来の物件には、法人の一括借上げ方式があったが、現在では、ハイリスクになっている。
1社の一括借上げの場合、更新されないと入居者ゼロになる恐れが高い。
  (家賃の値下げ要求に対応せざるを得ない。)
   
    ※リスク分散(複数会社への分散、複数業種への分散)を検討しておくべきである。
(3) 賃貸住宅市場の展望
需要と供給のバランスが逆転したことにより、「貸し手」に様々な工夫が見られる。
入居形態で工夫し、付加価値をつけて差別化を図っている。
賃貸住宅についても、経営感覚が必要であり、社会変化をとらえて顧客ニーズにあった賃貸住宅を供給することが重要である。
@ 一つは占有面積の拡大
政府が進める「都心の100uマンション、郊外の100坪住宅」の影響もあるが、賃貸住宅でも新規供給物件は確実に占有面積が拡大している。
A 二つ目は駐車場の充実
戸当り1台の駐車場は標準であり、戸当り2台で差別化を図る。
B 三つ目は環境
住む目的と喜びがある環境が大切であり、「コンセプトマンション」が典型例である。
(例) 「ペット同居型マンション」、「インテリジェントマンション」、「支店長マンション」、「環境共生住宅」等
C 四つ目はソフトサービスの充実
分譲マンションに見られたソフトサービス(フロントサービス等)が賃貸マンションにも付加されるようになってきた。
 
特徴を持ったマンションは、家賃も高いが、入居率も高い。
反面、特徴のないマンションは、家賃を下げても入居率が低い。


3.高齢者住宅の現状

介護型施設は数多くあるが、高齢者住宅としては、「有料老人ホーム」、「高齢者向け優良賃貸住宅」、「一般賃貸住宅」、「類似施設」等があるが数は多くない。
高齢者住宅といわれるものが、全国で約10万戸あるが、必要とされる住宅戸数は約570万戸といわれており、約560万戸が不足している状態である。
企業では、寮の所有から賃貸住宅の使用へと方向転換してきており、遊休不動産も所有しているだけでは負の資産と評価されるため、売却、有効活用が盛んになってきた。(特に大手企業の参入が相次いでいる。)
改装型の高齢者住宅の増加。
一般賃貸型高齢者住宅の供給が加速。

(1) 大手企業の参入
保有不動産の有効活用
大手企業では、「寮」、「保養所」、「遊休不動産」等を所有しているが、会計基準の変更から今までは、資産計上していたものが時価評価されることになり、売却、有効活用に積極的になってきた。
改装型高齢者住宅・施設として供給が始まっており、先行企業での成功事例がある。
新規事業開発
高齢者住宅の市場に着目して、自らが事業者となって供給している。
大手企業では中高年社員の雇用創造が求められており、電力各社、ガス各社で多く見られるようになってきた。(別法人を設立して供給されている。)
(2) 賃貸住宅市場における供給
一般賃貸住宅では特定の顧客を対象とした「コンセプトマンション」が脚光を浴びているが、高齢者住宅も、「コンセプトマンション」の一態様として供給が始まっている。
々なタイプのものが供給されていますが、入居率では二極化している。高齢者の特性、需要を正しく把握している住宅では入居率が高く、ニーズに合っていない住宅では入居率が低いという傾向がある。


4.高齢者の居住の安定確保に関する法律について

賃貸住宅市場では過去には高齢者の入居を敬遠してきたという経緯があることから、高齢者の円滑な入居と高齢者に適した良好な居住環境を確保し、安定的に居住することができる賃貸住宅の供給を目的としている。(平成13年10月から施行)

@
高齢者円滑入居賃貸住宅の登録制度

高齢者の方を積極的に受け入れる物件を指定登録機関に登録する制度。
登録物件は、バイアフリーや緊急通報システムなどの要件は一切なく、現在、満室であっても構わない。
登録物件は、市町村の窓口から高齢者に紹介してもらうことができる。
登録することにより、賃料債務保証を受けることができる。
登録されていなければ市町村からの紹介はないので、登録しておくことが得策である。

A
高齢者向け優良賃貸住宅の供給の促進

良好な居住環境を整えた高齢者向けの優良賃貸住宅は、都道府県知事の認定を受けることができる。
認定を受けた事業については、国、地方公共団体からの支援制度がある。
事業者に対する事業補助、住宅金融公庫業務の特例の適用、入居者に対する家賃補助がある。
新築物件だけでなく、既存物件を高齢者仕様にリフォームする場合もこの制度が利用できる。

B
終身建物賃貸借

都道府県知事の認可を受けた場合には、賃貸借契約において賃借人が死亡した時に終了する旨を規定することができる。
入居できる高齢者には一定の資格が必要であり、契約書も公正証書で作成することが条件になる。
一般的には、一般賃貸よりも有料老人ホーム、特定施設などで利用される。


5.高齢者住宅の展望

日本では、戦後、住宅不足の状態が長く続いたことから、住宅政策として「量の供給」が講じられてきた。
現状では「量の供給」は充足してきたので、「質の対策」に政策転換されてきている。
住宅政策の変化に伴い、一般賃貸住宅においても特定の顧客を対象とした住宅が供給され始めてきた。
「コンセプトマンション」という呼び方をされているが、高齢者住宅についても同様な捉え方ができる。(「高齢者」という特定顧客に向けた住宅といえる。)
高齢者住宅については、現状では例が少なく、家主、事業者とも暗中模索という状態である。
現在の高齢者住宅は、賃料、入居一時金、立地、間取り、設備、サービスとも様々であり、特徴としては、賃料の多寡が入居率には連動していないことである。
「介護」を目的とした施設系では賃料、入居一時金が入居率に連動しやすいという傾向があるが、健常者向けの高齢者住宅では、必ずしも賃料等に連動しないという傾向がある。
顧客として高齢者のニーズを把握して供給された物件では入居率が高いといえる。


6.高齢者住宅の取り組み方と提案

賃貸住宅市場では「高齢者住宅」に特化した供給が大切である。
高齢者の殆どは、「元気高齢者」であり、「要介護高齢者」、「寝たきり高齢者」はわずかしかいないのが実態である。
「高齢者=介護」という先入観を払拭して、自立した高齢者である「元気高齢者」を対象とした住宅を供給していくことが必要である。
軽度の介護には「在宅介護」で対応し、重度の要介護者については施設が必要である。
高齢者住宅の対象顧客は、若年層とは異なっている。
若年者向け賃貸住宅では、賃貸住宅からの住み替えがほとんどである。
高齢者の場合、一般的には持ち家比率が高く、住み替えのニーズは少ないと評価されているが、最近では、持ち家からの住み替えが多くなっている。
現実は「終身利用権」を活用した住宅では、ほぼ100%が持ち家からの住み替えである。
賃料補助がある制度住宅でも約半数は持ち家からの住み替えである。
住み替えに対するニーズは44%くらいあり、住み替えのきっかけとしては、「駅から遠い」、「生活利便施設が遠い」、「広すぎる」、「負担が大きすぎる」等の理由があげられる。
顧客である高齢者の実態、住み替え理由、ニーズを正しく把握して、顧客ニーズに適合した住宅を提供することが大切である。
■高齢者の健康状態(平成11年厚生白書)
■高齢者の持ち家比率(平成10年度国土交通省住宅・土地統計調査)
■シニア住宅への転居意向(都市基盤整備公団、都市・住宅に関する意識調査平成11年度)

(1) 立地条件
高齢者住宅としては、公共の交通機関駅に近く、生活利便施設が近くにある地区が適している。
(高齢者向け優良賃貸住宅でも、駅前住宅の人気が高い。)
多くの高齢者は持ち家に住んでおり、81%の方は持ち家であるとされている。多くの住宅は昭和30年代、40年代に造られたもので、郊外型の庭付きの1戸建てが多く、こうした住宅はファミリー世帯には適しているが、高齢者には不便な立地が多い。
(2) 間取り
高齢者住宅では、ワンルーム等の狭いタイプが適していると考えられがちであるが、施設であれば寝るだけの部屋があれば良いので、15u未満のワンルームタイプの部屋でも良い。しかし、高齢者世帯は1人或いは2人入居になるので、1LDK、2LDKは必要となる。
戸建て住宅からの住み替えであることや家財道具は多い方々であることも想定し、ゆとりのある間取りが望ましい。
(3) 設 備
高齢者対応住宅としては、過剰な設備を連想する。
施設では要介護者のみを対象とするので、介護設備は介護しやすい設備が必要となる。
高齢者住宅では住みやすい設備が必要であるが、過度な設備は不要である。例えば、手摺を充実させると廊下幅が不足することになる。また、浴室も介護を重点にすると介助者のスペースとして2坪くらい必要になるが、高齢者住宅としては、住みやすい設備を採用することを重視すべきである。
(4) サービス
高齢者住宅にはソフトサービスが求められるが、「給食サービス」、「生活支援サービス」等が好まれる傾向にある。
「介護サービス」については、賛否両論があるが、将来の不安解消のため好まれている。
高齢者が自立している状態では、コスト高になってしまうが、「生活支援サービス」は好まれる傾向にある。
高齢者住宅に取り組む場合には、「生活支援サービス」、「介護サービス」、「給食サービス」等は自社での対応も可能であるが、他社と提携して提供することが好ましい。
(5) 権利形態
「分譲型」と「賃貸型」と大別できるが、高齢者は、所有権にはこだわらないので、「賃貸型」が好まれる。
高齢者住宅では「終身利用権」型の住宅が数多く供給されている。「終身利用権」は様々な特徴があり、事業者、入居者双方にメリットがある。
■世帯主の年齢別貯蓄高(平成11年総務庁統計局貯蓄動向調査)

※個人金融資産が1,400兆円あるといわれている中、高齢者が占める割合が60%を超えている。
■年齢別貯蓄負債差(平成11年総務庁統計局貯蓄動向調査)

※貯蓄から負債を引いた金額は、若年者よりも高齢者がより多い。
終身建物賃貸借契約が法制化されたので、今後は資産状況、所得状況により様々な形態での入居が進むと考えられる。


7.新しい高齢者住宅

高齢者住宅は、住宅産業ばかりでなく、昨今では異業種からの参入が活発化している。特に公的介護保険制度の開始、医療保険制度改正等から福祉系、医療系の方々の高齢者住宅への参入が顕著になってきており、それぞれの業態での効率アップのために取り組んでいる。
施設事業者は、措置費から保険へと変更があったため、より重度の要介護者の入所を希望し、軽度の要介護者の退所を模索している。
医療法人は、長期入院者の退院促進のための住宅を模索している。
異業種からの参入により、市場が活性化し高齢者の選択肢が拡大することは好ましいことである。
業種の垣根を超えて相互に補完できる事業スキームの構築は時代の要請でもあり、住宅業界でも、異業種の方々と相互に有効な提携関係を構築していくことが大切である。



以 上